王家秘伝のお酒のレシピ ドランブイ誕生の物語

「甘くて、強いカクテルを」
先日、お客様からこんなオーダーをいただきました。
「甘くて、強いカクテルをください。」
私がお出ししたのは、ラスティーネイルというカクテル。

名前を直訳すると「錆びた釘」。
少し無骨に聞こえるその一杯は、光に照らされて琥珀色に輝き、甘さと強さが見事に同居しています。
口に含むと、まず蜂蜜を思わせるやわらかな甘さが広がり、すぐにスコッチウイスキーの骨太な香りが追いかけてくる。やさしさと力強さが同時に感じられる、大人のための贅沢な味わいです。
ラスティーネイルのレシピ
このカクテルは驚くほどシンプルに作られます。

- スコッチウイスキー
- ドランブイ(リキュール)
氷の入ったロックグラスに二つを注ぎ、静かにステアするだけ。
それだけで完成するのに、深みのある奥行きを持った一杯に仕上がります。
ドランブイという特別なリキュール
ラスティーネイルを支えるもうひとつの主役、それがドランブイです。

ドランブイは、熟成スコッチウイスキーをベースに、
- ヒースの蜂蜜
- 数十種類のハーブやスパイス
を加えて造られる、唯一無二のリキュール。
一口ごとに、蜂蜜の甘さ、ハーブの香り、そしてウイスキーの厚みが折り重なり、複雑でありながら調和のとれた味わいを生み出します。
このドランブイ、誕生には実は——ある王子と、彼を命がけで守った男の物語が隠されているのです。
ドランブイ誕生の物語 〜美しい王子と忠義の男〜
むかしむかし、ローマにチャールズ・スチュアート王子という若者がいました。

彼の家系「スチュアート家」は、かつてイギリスを治めていた王家です。
しかしその座は奪われ、ドイツから来た「ハノーヴァー家」がイギリス王位につきました。
「いつか王家を取り戻すのだ。」
そう誓った王子は25歳の時、祖国スコットランドへ向かいます。
スコットランドには昔からスチュアート家を支持する人々がいて、彼らは王子の帰還を待ち望んでいたのです。
王子は彼らと共に蜂起し、ハノーヴァー家率いるイングランド軍に立ち向かいました。
カロデンの戦い
1746年、「カロデンの戦い」と呼ばれる決戦の日。
スチュアート家を支持するスコットランドの戦士たちは勇敢に戦いました。

しかし数で勝るイングランド軍の前に敗れ、多くの仲間を失ってしまいます。
そして、王子は必死に馬を走らせ、血煙立ちこめる戦場を後にしました。
「私は、ここで終わってしまうのか……」
胸に広がるのは、祖国を救えなかった無念と、戦士たちを失った悲しみ。
逃亡と忠義
「殿下、我らは命に代えても、あなたを守りましょう。」
追手の兵が迫る中、王子を助けたのがスコットランドの西にあるスカイ島という島のマッキノン一族でした。
彼らにとって王子を匿うことは、一族全体を危険にさらす行為でした。
それでもスチュアート家への忠義と誇りを胸に、彼らは王子を守り抜きます。
雨に濡れた荒野を抜け、波立つ海を越え、闇夜に怯えながらの逃亡。
小舟の上で、王子は震える声でつぶやきました。
「もし生き延びられたなら……必ず、あなたの忠義に報いる。」
託された秘伝のレシピ
数か月に及ぶ逃亡の末、王子はついにフランスへ脱出することに成功しました。
命を救ってくれたマッキノン一族へ、王子が感謝のしるしとして授けたもの。
それが、スチュアート王家に伝わる秘伝の酒のレシピでした。

そして、このレシピは代々受け継がれ、やがて「ドランブイ」と名付けられて世に広まりました。
その名は、古いスコットランドの言語で**「満足をもたらす酒」**を意味します。
つまり、ラスティーネイルに使われているドランブイは、ただのリキュールではなく、忠義と感謝、そして歴史そのものが宿るお酒なのです。
物語が変える一杯の味
歴史を知った上でラスティーネイルを味わうと、不思議と味わいが変わって感じられます。
名前は「錆びた釘」。けれどその奥には、王家の秘話と命を懸けた忠義の物語がある。
物語を知ることで、カクテルはただの飲み物から、時を超えた体験へと変わるのです。
動画でさらに深く楽しむ
今回のラスティーネイルとドランブイの物語を、約10分間の動画ポッドキャストとして制作しました。
王子の逃亡劇から、現代のBARカウンターへとつながるストーリーを臨場感たっぷりに語っています。
YouTube「王家秘伝のお酒のレシピ ドランブイ誕生物語」
▶️ 動画を視聴する
ぜひ物語とともにラスティーネイルを。
きっと、これまで以上に特別な一杯になるはずです。