アブサン殺人事件|かつて“人を狂わせる酒”と恐れられた緑の酒

「アブサンは人を狂わせる酒」

そんな話を聞いたことがあるでしょうか?

実際、20世紀のはじめに
**“アブサン殺人事件”**と呼ばれる事件が起きました。

この事件は大きな社会問題となり、
やがてアブサンはヨーロッパ各国で禁止される酒になります。

今日はその事件とは?
そしてアブサンとはどんなお酒なのかを紹介します。


アブサン殺人事件

1905年、スイスの小さな村で衝撃的な事件が起きました。

農夫ジャン・ランフレイという男が
・妻(妊娠中)
・4歳の娘
・2歳の娘
を銃で殺してしまったのです。

この事件はすぐに新聞で大きく報道されました。
そして新聞の見出しはこうでした。

「アブサンが一家を殺した」

事件の前、ランフレイは酒を飲んでいました。
その中にアブサンが2杯含まれていたのです。

しかし実際にはその日、
・ワイン
・ブランデー
・コニャック
・リキュール
など多くの酒を飲んでいました。

それでも新聞は「原因はアブサン」と報道しました。

この事件をきっかけに
アブサンは社会問題として扱われるようになります。


アブサンとはどんな酒?

アブサンはヨーロッパで生まれたお酒です。

主な材料は
・ニガヨモギ
・アニス
・フェンネル
などのハーブ。
 

アルコール度数は、60%ほどとかなり強いお酒です。

そして特徴的なのがその色。
ハーブの成分によって**淡いエメラルド色(緑色)**になります。

この美しい色から、アブサンは
「緑の妖精(Green Fairy)」
とも呼ばれてきました。


水を入れると白く濁る

アブサンはそのまま飲むこともできますが、伝統的には水を加えて飲みます。

グラスに注いだ緑色のアブサンにゆっくり水を加えると、透明だった液体がミルクのように白く濁っていきます。

これはハーブの香り成分が水によって広がるためで、ルーシュ(Louche)現象と呼ばれています。
 


「緑の時間」と呼ばれた酒

19世紀のパリでは、夕方になるとカフェのテラスに人が集まりアブサンを飲むのが流行していました。

テーブルには緑色の酒が入ったグラスが並びます。

この時間は
L’heure verte(ルール・ヴェルト)
「緑の時間」

と呼ばれていました。

つまり“緑色の酒を飲む時間”という意味です。
 


危険な酒と言われた理由

アブサンが危険な酒と言われた理由の一つに
ツヨン(thujone)
という成分があります。

これはニガヨモギに含まれる天然成分で、昔は「幻覚を起こす物質」と言われていました。

しかし現在では研究が進み、ツヨンは幻覚物質ではなく、アブサンに含まれる量では特別な作用は起こらないと考えられています。


粗悪なアブサンの問題

当時のヨーロッパでは、アブサンの人気が高まり、安価な製品が大量に作られるようになりました。

その中には
・工業用アルコール
・人工着色料
などを使った粗悪な模造アブサンも存在していました。

こうした酒による健康問題も
「アブサンは危険な酒」
というイメージを強める原因になりました。


ワイン業界との関係

アブサンが危険な酒と言われた背景には、もう一つ大きな要因があります。

それはワイン業界の存在です。

19世紀後半、ヨーロッパでは、ブドウの害虫フィロキセラによってワイン産業が大きな打撃を受けました。

ワインが不足すると多くの人が代わりに飲んだのがアブサンでした。
 

しかしその後ワイン産業が回復すると、今度はアブサンが競争相手になってしまいます。

そのためワイン生産者たちは「アブサンは危険な酒」という主張を支持しました。


そしてアブサンは禁止される

こうした流れが重なり、
・1908年 スイス
・1912年 アメリカ
・1915年 フランス
などでアブサンは禁止されることになりました。


そしてアブサンは復活する

20世紀の終わり頃、アブサンに関する研究が進みます。

その結果
「アブサンは特別に危険な酒ではない」
ということがわかってきました。

1988年、EUはツヨンの含有量に基準を設け、安全基準を満たすアブサンは販売が認められるようになります。

こうしてアブサンは、約100年ぶりに復活しました。


まとめ

かつて「人を狂わせる酒」と恐れられたアブサン。

しかしその背景には
・新聞報道
・酒業界の競争
など、さまざまな事情がありました。

歴史を知ってから飲むと、この緑の酒はまた違った味に感じるかもしれません。

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