世界初のアマレット・リキュール誕生物語 : ラッツァローニ アマレット
第一章:スイスから来た家族(18世紀初頭)
昔々、スイス国境に近いグリジョーニという場所に、ラッツァローニという家族が住んでいました。しかし、先祖代々の城をめぐる争いごとに嫌気がさした彼らは、新しい土地で平和に暮らすことを決意します。
目指したのは、イタリア北部ミラノの近くにある「サローノ」という小さな町。

この町には、ある特別な食材がありました。それはアーモンドです。
サローノの人々は、アーモンドが大好きでした。タルトに入れたり、お米料理に混ぜたり、カラメル砂糖でコーティングしたお菓子を作ったり。冬の寒い夜には、暖炉のまわりで、アーモンドをワインに浸しながら昔話を楽しむ——そんな温かい町でした。
ラッツァローニ家は、この町で新しい生活を始めます。そして、この町の文化に触れながら、やがて運命の日を迎えることになるのです。
第二章:突然の大事件!偉い聖職者がやってくる(1718年)
1718年のある日、サローノの町に驚くべきニュースが飛び込んできました。
「ミラノの大司教ベネデット2世様が、町を訪れる!」

大司教とは、カトリック教会でローマ法王に次ぐほど偉い聖職者のこと。当時のイタリアでは、大司教の訪問は町にとって最高の名誉でした。
村中が大騒ぎになりました。
「大司教様をおもてなししなければ!」
「美味しいビスケットを用意しよう!」
しかし、問題が起きます。大司教様は予想以上にたくさんの人を連れてきたのです。村中のビスケットを集めても、全然足りません。
「どうしよう…これでは失礼にあたってしまう…」
村の人々が困り果てていたとき、一人の若者が立ち上がりました。その名はジュゼッペ・ラッツァローニ。
第三章:恋人と作った奇跡のビスケット
「僕に任せてください!」
ジュゼッペは荷馬車に飛び乗り、フィアンセ(婚約者)の家へ急ぎました。
「君の力を貸してほしい!」
フィアンセの家には、前日に殻を割ったばかりの新鮮なアーモンドがたくさんありました。二人は途中で新鮮な卵と砂糖を買い足すと、村に戻ってすぐにビスケット作りを始めました。
材料はシンプル:
- 新鮮なアーモンド
- 卵白
- 砂糖
二人は心を込めて生地を作り、ビスケットを焼き上げました。オーブンから出てきたビスケットは、砂糖がダイヤモンドのようにキラキラと輝き、カリカリとした食感。アーモンドの香ばしい香りが部屋中に広がります。

「このビスケット、少し甘くて、ほんのりビターな味がするね」
「イタリア語で”ほろ苦い”は”アマーロ(Amaro)”…だから、この小さなビスケットを“アマレッティ(Amaretti)”と名付けよう!」
“アマレッティ”とは「ほろ苦い小さなもの」という意味です。
第四章:大成功!そして伝統へ
ジュゼッペとフィアンセが急いで作った「アマレッティ」は、大司教様に大変喜ばれました。
「なんと香ばしく、上品な味わいか!」
大司教様の訪問は大成功。村は救われました。そして、この「アマレッティ」ビスケットの評判は、サローノだけでなく、イタリア中に広がっていきました。
やがて、このビスケットは正式な名前を得ます——「アマレッティ・ディ・サローノ」(サローノのアマレッティ)。
ラッツァローニ家は、1786年頃から正式にこのビスケットの製造を始め、イタリア最古のビスケットメーカーとなりました。
第五章:三代後の大発明(1851年)
1718年の出来事から約130年後——1851年。
ラッツァローニ家の子孫であるパオロ・ラッツァローニとダヴィデ・ラッツァローニは、ある日、こんなことを考えました。
「このアマレッティ・ビスケットの香りと味わいを、お酒にできないだろうか?」
彼らは実験を始めました。
世界初の製法:ビスケットからリキュールへ
ステップ1:ビスケットを焼く
- 伝統のアマレッティ・ビスケットを、いつもより低い温度でゆっくり焼きます
- こうすることで、香りを閉じ込めます
ステップ2:粉々に砕く
- 焼き上がったビスケットを細かく粉砕します
ステップ3:お酒に漬け込む
- 粉砕したビスケットを、スピリッツ(蒸留酒)に入れます
- 3ヶ月以上、じっくり漬け込みます
- この間に、アーモンドの香り、卵白のコク、焼き菓子の香ばしさがお酒に溶け出します
ステップ4:香草とブレンド
- さまざまな香草のエキスを加えて、複雑な味わいに仕上げます
ステップ5:さらに熟成
- 時間をかけて熟成させ、味をなじませます
ステップ6:完成!
- ついに、世界初のアマレット・リキュール「ラッツァローニ・アマレット」が完成しました

第六章:なぜ「世界初」なのか?
パオロとダヴィデが作ったこのリキュールは、それまでの世界になかった画期的なものでした。
普通のリキュールの作り方:
生の果物や種 → お酒に漬ける → リキュール完成
ラッツァローニの作り方:
生のアーモンド → ビスケットに加工 → お酒に漬ける → リキュール完成
つまり、一度「完成品(ビスケット)」に加工してから、もう一度リキュールに作り直すという、誰も思いつかなかった二段階製法だったのです!
この方法だと、こんな良いことがあります:
- ビスケットを焼くときに生まれる香ばしさが加わる
- 卵白が入っているので、メレンゲのような軽やかな風味
- 砂糖がカラメル化して、より複雑で深い甘み
他のアマレットが「生の杏仁やアーモンド」から作られるのに対し、ラッツァローニだけは「焼き菓子から作られる」——だから、「リキッドクッキー」(液体クッキー)とも呼ばれるようになりました。
第七章:今も続く伝統
170年以上が経った今でも、ラッツァローニ・アマレットは同じ製法で作られています。
サローノの工場では:
- 伝統のアマレッティ・ビスケットが焼かれ
- 丁寧に粉砕され
- 3ヶ月以上スピリッツに漬け込まれ
- 香草とブレンドされ
- じっくり熟成されています
味わいの特徴:
- アーモンドの甘い香り
- 焼き菓子の香ばしさ
- 甘すぎない上品な味わい
世界中のバーテンダーやパティシエが、この伝統のアマレットを愛用しています。
エピローグ:物語が受け継がれる理由
1718年、大司教を迎えるために急いで作られたビスケット。
1851年、そのビスケットから生まれた世界初のアマレット・リキュール。
ラッツァローニの物語は、こんなことを教えてくれます:
✨ 困難な状況でも、知恵と協力で乗り越えられる
(ジュゼッペとフィアンセの協力)
✨ 伝統を守りながら、新しいことに挑戦する
(ビスケット→リキュールへの進化)
✨ 本物は、時代を超えて愛され続ける
(170年以上変わらぬ製法)
グラスを手に取るとき、あなたは170年以上前の物語を味わっている
——それがラッツァローニ・アマレットです。
🍷 Amaretto Lazzaroni 1851 — 世界初のアマレット・リキュール
