青い点の意味 アイリッシュウイスキー ブルースポット

アイルランド、ダブリン。 いまから200年以上前のこと。

◆街角に生まれた小さなお菓子屋
にぎやかな街の通りに、一軒の小さなお菓子屋さんがありました。 看板には『ミッチェル』と書かれています。
店に立つのは、お父さん、お母さん、そして兄弟たち。 家族みんなで働く、あたたかい店です。
ショーケースには甘い焼き菓子が並び、棚にはワインや、 ちょっと度数の強い甘いお酒――今でいうデザートワインのようなものも置いてあります。
お菓子を買いに来た子どももいれば、 ワインを探しに訪れる大人もいる。
いつも、誰かの笑い声が聞こえてくる店でした。
◆ウイスキーづくりへの第一歩
でも、そんなミッチェル家に、ある日ひとつの思いが生まれます。
「この街で、一番うまいウイスキーを届けたい」
1887年、家族は新しい挑戦を始めました。 お菓子屋さんを続けながら、ウイスキーづくりに乗り出したのです。
といっても、自分たちで蒸留するわけではありません。 アイルランドで古くからウイスキーを作っているジェムソン蒸留所から、 蒸留したばかりの若いウイスキーを分けてもらいます。
それを自分たちの店の地下室に運び、 ゆっくりと時間をかけて熟成させることにしました。
◆地下室に眠る樽たち

地下室には、バーボンの樽。 シェリー酒の樽。 ポルトガルの甘いマデイラ酒の樽。
使い終わったお酒の樽にウイスキーを詰めると、 木に染み込んだワインや甘いお酒の風味が、 じんわりとウイスキーに移っていくのです。
◆色付きの点が生んだブランド
ただ、ひとつ困ったことがありました。
地下室には、たくさんの樽が並びます。 「これは何年ものだったかな?」 間違えないように、いちいち確認するのが大変でした。
そこで、ミッチェル家は考えます。
「そうだ、樽に色をつけよう」
7年熟成は青、 10年熟成は緑、 12年熟成は黄、 15年熟成は赤。
樽にひとつずつ、色付きの『点』を描いていきました。 まるで、大事に育てた木に目印をつけるように。

これが、「スポット・ウイスキー」というブランドの始まりです。 スポット=点。
青、緑、黄、赤。 色ごとに、年月が刻まれています。
時代は変わっても、この伝統は受け継がれました。
◆青い点が教えてくれる味わい
例えば、この『ブルースポット』。 青い点がついたウイスキーは、 7年以上、樽の中でじっくり眠っていました。

バーボン樽が生み出す、バニラやキャラメルの甘さ。 シェリー樽からは、ドライフルーツや焼きリンゴの香り。 そして、マデイラ樽がもたらす、ナッツやスパイスの奥行き。
ひと口含むと、パイナップルや青バナナのようなフレッシュな果実感。 そのあと、黒胡椒やクローブのピリッとした刺激。 最後に、シナモンやバニラの甘い余韻がふんわり残る。
ただ飲むだけじゃなく、 口に含むたび、樽に描かれた青い点が目に浮かぶような―― そんな一本です。
◆ブルースポット、おすすめの飲み方
せっかくなら、この奥行きある味わいをじっくり楽しんでほしい。
まずは、ストレートで。
グラスに少しだけ注いで、香りを確かめながらゆっくり口に含む。
アルコールの刺激に驚くかもしれませんが、そのあと広がる甘さと果実感にきっとハッとします。
強いなと感じたら、少しだけ加水してみてください。
ほんの数滴の水で、隠れていた香りがふわっと開きます。
ロックも。
氷が溶けるスピードで味が変わっていくので、「変化を楽しみたい」という方におすすめ。

最後に、ハイボール。
贅沢な飲み方ですが、ブルースポットの果実感とスパイスが炭酸で弾けて、
爽やかでリッチな一杯になります。
飲み方に正解はありません。
でも、まずは一度、ストレートで。
青い点に込められた時間を、そのまま感じてみてください。
ブルースポット
1700円